2017年10月、僕は2年ぶりに島根県松江市を訪れました。台風一過の晴天で心地よい日、自転車で市内を観光することでさまざまな出会いや気づきがありました。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)ゆかりの地を巡る
この年の目的は、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)ゆかりの地を巡ること。
八雲は、「耳なし芳一」や「雪女」、「貉」といった妖怪話を収めた『怪談』の作者です。同時に、新聞記者であり、民俗学者であり、教育者でもありました。
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僕は、さまざまな顔を持つ八雲との再会を通して、自分が見失っているものを取り戻したかったんですね。
島根県松江市をまるっと1日楽しめる観光スポット7選
僕が巡った小泉八雲ゆかりの地を紹介します。島根県松江市をまるっと1日楽しめる場所ばかりです。
1. 小泉八雲記念館
小泉八雲記念館では、小泉八雲の遺品や資料が展示されています。
2016年のリニューアルオープン後、展示スペースが拡充されました。第1展示室は八雲の生涯を辿り、第2展示室はさまざまな切り口から八雲に迫ります。また、八雲関連の蔵書を閲覧できるライブラリーなども新設されました。
八雲は世界各地を旅しながら現地人と交流し、多様な価値観をありのままに受け入れていきました。小泉八雲記念館は、こうした八雲の姿勢を「オープン・マインド(開かれた精神)」という言葉で紹介しています。
今回、僕は小泉八雲記念館を再訪し、自分に足りないのがオープン・マインドだと気づきました。ここ最近の僕は、「こうでなければいけない」という思い込みのせいで、多様な価値観を受け入れる寛容さを失っていました。このことを教えてくれた八雲に感謝!
ちなみに、毎年、僕が小泉八雲記念館を訪れる日は、小学生の社会科見学が行なわれています。子どもたちが元気いっぱいに「ありがとうございました!」と言っているのが微笑ましいんです。
2. 小泉八雲旧居
まずは、八雲の感動や思考を追体験できる場所を紹介します。
これらの場所を訪れると、自然と歴史が体の中に流れ込んできて、改めて「日本が好き」と実感させられます。八雲もきっと同じ気持ちだったんでしょうね。
八雲は、約5か月間、旧松江藩士の武家屋敷を借りて住んでいました。この屋敷を当時のままで保存しているのが小泉八雲旧居です。屋敷を取り囲む美しい庭が見どころです。
屋敷の西側には、八雲のお気に入りだった居間があります。僕は、他に人がいないときを見計らって、居間の真ん中に腰を下ろしました。
北南西の三方向に広がるのは、柔らかな日差しを浴びて輝く緑色。居間を通り抜ける、冬の訪れを予感させる秋風。微かに聞こえる虫の音。八雲が愛した日本の庭を五感で存分に味わえます。
小泉八雲旧居は、松江市で僕が最も好きな場所です。
3. 松江城
松江城は、全国に現存する12天守の1つで、国宝にも指定されています。
石垣や井戸、石落とし、包板(つつみいた)など、城の建築構造を屋外と屋内の両方から見られます。城マニアにとっては最高のご馳走ですね(笑)
島根県尋常中学校と島根県尋常師範学校で英語教師を務めていた八雲は、教え子たちと一緒に天守閣に登り、眼下に広がる宍道湖や嫁ヶ島などをめでたといいます。現在では、自然と人間とが共存する観光都市を一望できる名スポットとなっています。
4. 城山稲荷神社
次に、八雲がお気に入りだった神社と寺院を紹介します。
松江市の寺社には不思議がいっぱい!
それらを見聞きした八雲は想像力を刺激され、『怪談』を記す動機となったのでしょう。
城山稲荷神社は、初代松江藩主の松平直政が勧請した神社です。日本三大船神事の一つである「ホーランエンヤ」の還御祭で、御神体を載せた船が還ってくる神社としても有名です。八雲は、通勤途中にしばしばこの神社に立ち寄りました。
境内には、大小さまざまな狐がズラッと並びます。頭や体の一部が欠けて苔むしている狐の石像もあります。神聖な雰囲気が漂う境内ですが、一人で歩いているとちょっぴり怖くなります(笑)
こちらの2体は、八雲が特に褒めていた狐たちです。口を開けた狐と閉じた狐とがいて、何かを訴えているようです。城山稲荷神社は火難除けの神社でもあるので、狐たちは「火の用心」と言っているのかもしれませんね。
5. 月照寺
月照寺は浄土宗の寺院で、松江藩主を務めた松平家の廟が納められています。
月照寺では、八雲が「化け亀」として紹介した大亀の石像だけでなく、保存状態の良い廟所や豊かな自然も見られます。季節によっては、咲き誇るアジサイも楽しめるんですよ。
順路に沿って、苔むした石畳を踏みしめていきます。台風一過の境内を歩いていると、躍動する大地のエネルギーが靴底から伝わってくるようでした。湿気を含んだ草木の息吹に呼応して、僕自身も気力がみなぎってきました。都会暮らしでは味わえない、自然と触れ合う喜びに、身も心もリフレッシュ!
こちらの大亀は、夜な夜な城下で暴れ回ったという伝説の持ち主です。しかし、今では石碑を背負って静かにたたずんでいます。
この石像は「亀趺碑(きふひ)」と呼ばれるものです。大亀の正体は、龍が生んだ9頭の神獣の1頭である「贔屓(ひいき)」です。大亀は「亀」ではなく「龍」だったんですね!
6. カラコロ広場
最後に、夜の松江市を散策しながら、小泉八雲の姿を追いかけてみましょう。
八雲は、ヨーロッパ、アメリカ、日本を転々とし、最後には、『怪談』などに書き記した“異界”へと旅立っていきました。そんな八雲の後ろ姿が街の明かりに照らし出され、旅人の哀愁が漂っています。
夜のカラコロ広場。「カラコロ」は、人々が下駄を履いて松江大橋を渡る際に響く音を表しています。八雲は、この音に心惹かれたと記しています。
その「カラコロ」が名前の由来となっているカラコロ広場の奥にも、八雲の後ろ姿があります。まるで壁に吸い込まれていくような姿がとても印象的です。
7. 松江水燈路
松江市の明かりに導かれて夜の松江城へ。「松江水燈路」の世界へ僕は迷い込んでいました。
大手門跡から本丸まで、手作りの水燈路行灯がズラリ!
大きな行灯や小さな行灯、タッチで点滅する行灯などが夜闇を幻想的に彩っていました。
特に美しかったのは、二の丸上の段で開催されていた「手作り行燈展」。アーティストの力作だけでなく、地元の小学生が作成した可愛らしい行灯も所狭しと並んでいました。
行燈の中には、しまねっこや吉田くんといったキャラクターに混ざって、八雲の姿もありました。ネタにされていますが、教育者の八雲は、きっと笑って許してくれるでしょう(笑)
松江水燈路は、さながら極楽浄土の景色でした。旅の終盤、日常生活に戻る前に松江水燈路を見られた僕は、とても幸せだったと思います。
小泉八雲との再会が人生の転機をもたらした
八雲は、日本を愛し、日本の魅力を世界に発信しました。世界に誇るべき自然と歴史、そこで育まれた人情。日本人だと気づきにくいこれらの魅力を、八雲は丹念に書き綴ったんですね。
こうした八雲の視点で周りを見渡せば、「人生もまだまだ捨てたものじゃない」と思えてきます。僕は、仕事やら何やらについて悶々と考え続けているうちに、思考が硬直化して、視野が狭くなっていました。そんな僕にとって、八雲は希望の光となったんです。
ちっぽけな悩みに振り回されて、楽しいことを見失うのはもったいない!もっと人生を楽しもう!
2年ぶりの松江市観光で小泉八雲と再会し、僕の中で迷いが吹っ切れました。八雲が僕の人生に転機をもたらしてくれた、記念すべき旅でした。