毎月第一土曜日の夜は「デパートメントH」が開催されます。
「デパートメントH」通称「デパH」「デパチ」は、20年以上の歴史を誇る日本最大級のアングラ&フェティッシュイベントです。僕のような一般人(?)からアーティストやカメラマン、コスプレイヤー、異性装者、ラバリスト、ドーラーなど、さまざまなジャンルの人たちが集います。主宰者は、イラストレーターのゴッホ今泉氏。

入り口で面白い光景と出会う。タイデロンに捕食されるサエポーク&サエシープ(2016年1月)
本記事では、“デパートメントHの華”であるドラァグクイーンの魅力を紹介します。
ドラァグクイーンとは?
ドラァグクイーンとは、派手な衣装と厚化粧で女装しパフォーマンスを行う人たちです。
有名なドラァグクイーンといえばマツコ・デラックスさん。ユニークなヴィジュアルとトークが人気を博し、現在ではTVなどでお馴染みの芸能人です。そんなマツコさんが司会を務める『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系列)では、「オネエ道中膝栗毛」と題して全国津々浦々のドラァグクイーンたちを紹介。今やドラァグクイーンの存在は一般に認知されつつあります。

デパートメントHのドラァグクイーンたち(2016年1月)
ドラァグクイーンはゲイ文化から発祥したこともあり、その多くは同性愛か両性愛の男性です。一方で、性的嗜好とは関係なく、パフォーマンスのために女装するドラァグクイーンもいます。女性のドラァグクイーン(ドラァグキング)まで存在するから驚きです!!
デパートメントHでは、ドラァグクイーンたちが来場者をサポートしたり、テーブル席の片付けを行なったりします。「女装ホステス」として、来場者が快適に過ごせるように気を配っているんですね。
ドラァグクイーンの皆さんはとてもフレンドリーです。「写真を撮らせてください」という要望にも快く応じてくれます。また、彼女たちはトークが巧みなので、一緒に話しているだけでも楽しいですよ。
DQ紹介で幕開け
深夜1時半頃から、ステージ上で「DQ(=ドラァグクイーン)紹介」が始まります。一夜を盛り上げるドラァグクイーンたちの顔見せです。司会は、「女中頭」のマーガレットさん。
ドラァグクイーンたちは、その月のイメージに合わせた衣装をまといます。1月は「お正月」で着物姿。6月は「ジューンブライド」で花嫁衣裳。昨年12月は、故水木しげる氏にちなんで、マーガレットさんが百目に大変身!!

百目に扮するマーガレットさん(2015年12月)
ドラァグクイーンたちのユニークで豪奢な衣装だけでも一見の価値ありです。
告知コーナーとDJタイム
デパートメントH終盤、最後の演目の前は告知コーナーです。イベントなどの告知を行いたい人たちにステージが解放されます。司会はマーガレットさんとオナン・スペルマーメイドさん。

右から、マーガレットさん、若林美保さん、オナン・スペルマーメイドさん(2015年12月)
毎回「濃い」面々が登壇する告知コーナーですが、そうした魑魅魍魎たちを上手にまとめあげるマーガレットさんとオナンさんのトークはまさに職人芸!!
「ただの告知でしょ?」と侮るなかれ!笑いあり涙ありの一時間はエンターテイメントです!!
最後の演目終了後はDJタイムです。このとき、ステージ上でドラァグクイーンたちが踊ります。それに合わせて、フロアで来場者の皆さんも踊ります。

DJタイムで踊るドラァグクイーンの皆さん(2016年1月)
デパートメントHを最初から最後まで支えているのがドラァグクイーンたちなのです。彼女たちと仲良くなると、デパートメントHが百倍も千倍も楽しくなりますよ。
ドラァグクイーンとの出会い
僕はドラァグクイーンが大好きです。恋愛対象として好きとか、性的にどうこうとかではありません。ドラァグクイーンの皆さんを一流のエンターティナーとして尊敬している、という意味での「大好き」です。
そもそも僕がドラァグクイーンを知ったのは小学生のときでした。RPGゲーム『女神転生』に「ドラッグクイーン」という敵キャラが登場します。これを見た僕は、しばらくの間、「ドラッグクイーン=ヤク中の女王様」と思っていました。しかし、「ドラッグクイーン」の「ドラッグ」は”drug”(薬)ではなく”drag”(引きずる)であること、「ドラッグクイーン」が女装パフォーマーを指すことを後に知りました。ドラァグクイーンに対する僕の認識はこの程度だったんですね。
もっとも、高校時代、僕はヴィジュアル系バンド・cali≠gari(カリガリ)のファンだったため、オナン・スペルマーメイドさんの名前は何度も耳にしていました。が、オナンさんがドラァグクイーンだとは知らず……。そんな僕が、十数年後、デパートメントHで本物のオナンさんを目の当たりにしました。
――青春時代に憧れていたオナンさんがこんなにも美しい方だったとは!!
「ドラッグクイーン」というワードが具体的なドラァグクイーンの姿と初めて結びつき、僕はすぐに彼女たちのファンになりました。
ステージで輝くドラァグクイーン
ドラァグクイーンの皆さんは、ステージの上でもっとも輝きます!!
彼女たちのパフォーマンスは華麗でエネルギッシュ。観客の心に火をつけるカリスマ的なオーラを放っています。

レイチェル・ダムールさん(2016年1月)
デパートメントHの演目には、しばしばドラァグクイーンが登場します。中でも盛り上がるのが4月のデパートメントH。この夜は、4月4日「オカマの節句」にちなんで、「春のオカマ祭」が開催されます。ドラァグクイーンのショーをたっぷり見られます。
眩暈がするほど、ウンザリするほど、吐き気がこみ上げるほどオカマが登場!!! 百花繚乱狂い咲きよ。(マーガレットさんのツイートより)
ドラァグクイーンの可能性
2015年は、同性愛を初めとするセクシャルマイノリティをめぐる社会制度が大きく転換した年でした。東京都渋谷区で「同性パートナーシップ」の交付が始まり、文部科学省は「性的マイノリティの子供への配慮」を通知しました。こうした動きの中で、「LGBT」(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー)などの言葉もメジャーになってきました。
社会制度が転換した背景には、セクシャルマイノリティの人たちの切実な思いがあります。偏見の目にさらされ、悩み、苦しみ、自らの性と向き合ってきた彼らの声――「権利を認めてほしい」「差別しないでほしい」という主張――が社会を変えた、といっても過言ではないでしょう。
一方、彼らとは別次元のところにドラァグクイーンは立っています。ドラァグクイーンの皆さんはあくまでもエンターティナーです。自らの性や嗜好をもパフォーマンスとして見せ、誰も批判できない「かっこよさ」や「楽しさ」で観客を沸かせます。ここに、社会を変えていくもう一つの原動力があるのではないか、と僕は思います。
マツコ・デラックスさんがTVで人気者となったため、彼女のような生き方に対する偏見はだいぶ和らぎました。彼女の存在に助けられたセクシャルマイノリティの人たちも多いはずです。
同様に、ドラァグクイーンたちのパフォーマンスを観た人たちが「かっこいい!」「楽しい!」と感動し、「こういう生き方もあるんだ」と気づく――社会の寛容化はこうして進んでいくのではないでしょうか?
ドラァグクイーンの可能性に期待する僕は、これからも彼女たちを「大好き」であり続けます。そして、デパートメントHにも足を運び続けます!!
(以下ではサムネイルをクリックすると別画面にて写真を見られます。また、別画面の写真をクリックすると拡大表示できます)
DQ紹介
一夜を盛り上げるドラァグクイーンたちの顔見せ。ユニークで豪奢な衣装に感動します。
2015年12月
2016年1月
ゴッホ今泉(2016年1月)
デパートメントHオーガナイザーのゴッホ今泉さん。ゴッホさんも、デパートメントHの夜はドラァグクイーンの姿をしています。
アマゾネス・ダイアン(2015年12月)
風紀委員としてデパートメントHの治安を守り続けるダイアンさん。パフォーマンスでは、表情豊かに女性の悲哀を演じます。2015年「春のオカマ祭」では、ジャーで炊いたご飯を食べていました。予想外の展開に観客は吹き出しました(笑)。
レディJ(2016年1月)
レディJさんも、デパートメントHの治安を守る風紀委員です。パフォーマンスでは、4人のダンサーたちと一緒に、迫力あるダンスを見せてくれました。レディJさんのパフォーマンスを初めて観ましたが、あまりのかっこよさに息を呑んでしまいました。
レイチェル・ダムール(2016年1月)
ダムールさんは、活動歴が非常に長い、ドラァグクイーン界の第一人者です。鳥獣を思わせる姿から女性へ、そして男性へと姿を変えていくパフォーマンスは圧巻。2015年「春のオカマ祭」で初めてダムールさんを観て以来、僕はその虜になってしまいました。そんなダムールさんのパフォーマンスを新年早々観られたのは幸運でした。